「東京日本橋東北部の風景(その2)」 (2000.11.15掲載)

私の勤務地が本年4月、4年9ヶ月過ごした三重県川越町から再び東京(豊島区南大塚)に変わり、さらに6月から中央区東日本橋に移動しました。中央区はその名のように東京都の中心部でも古い市街地で、銀行・証券・デパートなど古くからの金融や商業が栄えた所です。特に私の事務所が位置する日本橋や浜町などは下町で、商店街も昔から続いた衣服問屋やお菓子屋などが軒を並べて活気が感じられます。また東側を隅田川が流れて遊覧船や運搬船が往来し、その上の多くの橋や高速道路を見ることができるほか、川縁に設置された道路ではいろいろな花木を楽しむこともできます。このような地勢ですから、私の葉書絵の題材には事欠きません。約 5ヶ月の間にこの付近で描いた作品は70点を超えました。これらのうちから前回に引き続いて8〜9月に描いたもの20点をご覧頂きます。

「総合スポーツセンター正門にて」:(2000.8.10)

東京都中央区立総合スポーツセンター正面に置かれている彫刻です。作者は私の知らない人ですが、天に向けて子供を持ち上げた若い女性の立像と、左側は腰を下ろした女性とあごひじついた子供の像です。スポーツセンターのいかめしい建物と対照的ではありますが、健康美とやさしさが表現された実に良い作品です。
「弁慶像(人形町緑道)」:(2000.8.11)

人形町と浜町の中間にある幅約20 m程のグリーンベルトと甘酒横丁が交差したところに建てられた高さ1.5 mほどの彫刻です。非常に力強く顔の表情や身振りには、よくテレビでお目にかかる歌舞伎の弁慶の迫力が感じられます。このあたりは昔は葺屋町と言い、江戸三座の一つである芝居小屋があって、絶えずこのような出し物や操り人形が演じられていたようです。このためこの界隈には多くの人形師が住んだことから人形町と名づけられたとのことです。そのような背景からかどうか、すぐ近くに明治座があります。
「日本橋笠間稲荷神社」:(2000.8.15)

日本橋地区の町々には地元の人達の信仰を集めている8個所の七福神があり、ここはその一つで説明書によれば、江戸時代中期に常陸笠間稲荷神社の御分霊を奉って五穀水産殖産の守護神として信仰されている寿老神です。ビルの間にひっそりと建てられた小さなお宮さんですが、なかなか品があり神殿前に立つと気分が落ち着いて何だかご利益が得られそうな感じです。商売の神様ですからこのあたりの商店街の信心も篤いことと思います。
「甘酒横丁交差点にて」:(2000.8.16)

人形町通りと甘酒横丁が交差しているところです。道路の大きさでは人形町通りに分がありますが、この名前の方が風情があり人形町通りが遠慮したかも。正面の店はお菓子屋さんですが、上に掛かっている看板はこの店の裏に玄関がある創業以来数10年以上の「しゃもなべ料理」で有名な「玉ひで」という店のものです。お菓子屋さんは「玉ひで」の1階に間借りしているのかも知れません。向かって左側は地下鉄人形町の出入り口です。
「薬研堀不動院」:(2000.8.22)

大小のビルが立ち並ぶ一角にある8角形の建物です。読み方は「やげんぼりふどういん」で、川崎大師の東京分院だそうです。商業の神様とのことでこのあたりの商売屋には近くてさぞかし参拝者が多いと思いきや、私が描いている約30分に訪れた人は1人か2人でした。例祭などには賑わうと思いますが。ただし年に何回か「薬研堀講」といってちょっとした講話のようなものが開かれているようで、手書きのポスターを見かけることがあります。
「浜町水上バス発着所」:(2000.8.23)

隅田川水上バスは浅草を起点にし、東京港内を巡回運航しています。浜町発着所は両国橋下流の浜町公園近くに置かれていますが、ここで乗り降りする客は殆ど無いためか水上バスの発着回数も少ないようです。場所的にも高速道路の下にあって一般的な桟橋の風情はありません。この絵も雑然とした雰囲気だけを表した感じです。
「シモジマ横山町店」:(2000.8.25)

日本橋界隈には多くの大小の老舗があり、この店もあちこちで見かけます。そして販売している品物が店によって衣類や学用品など多種にわたっています。この絵は雑貨屋さんで、店頭ではご婦人が小箱を持ちながら何かを探している様子を描いたものです。
「馬喰町交差点にて」:(2000.8.29)

日本橋地区の東部分は靖国通り・江戸通り・清洲橋通り・清杉通りなどが縦横斜めに走っております。この交差点では江戸通りと清洲通りが交差しており、ここの地下10数mではJR総武線と都営地下鉄新宿線が交差しています。またここと浅草橋南・東日本橋の3交差点に囲まれた地域は活気のある商店街です。
「残暑の水天宮」:(2000.8.30)

今年の8月下旬は大変暑く、屋外でのスケッチは街路樹の下で汗をこらえてやっています。この水天宮は南側の水天宮通りで描いたものです。うっそうと茂った木々の間から緑色の屋根と建物の朱色の柱がくっきりと現れています。この絵では見えませんが道路沿いにはお菓子などの土産物店が軒を並べています。また後日判ったことですが、水天宮の境内地下は貸し駐車場になっています。
「人形町のモニュメント」:(2000.8.31)

甘酒横丁交差点を挟んで人形町通りの歩道に建っています。高さは約5mで上部の四角部分には「人形町」の彫刻文字があり、その下に背中合わせに時計が備えつけられています。大部分は街路樹に隠れてしまっているため、歩行者で気のつく人は殆ど居ないのではないかと思いつつ描きました。
「柳橋と神田川」:(2000.9.1)

神田川には数多くの橋が掛かっており、この柳橋は最も下流の隅田川との合流点にあります。アーチ型でどっしりしていますが余り大きくはないです。橋の下には屋形船が繋留されており、その間を色々な形をした運搬船が行き来しています。神田川の名前は知れ渡っていますが、水は非常に汚く詩情とは程遠い感じがします。
「浅草橋南郡代屋敷跡」:(2000.9.4)

浅草橋のたもとにちょっとした緑地があり、そこにこのように魚か鯨のような形をしたモニュメントが設置されています。もともとこの郡代屋敷は案内板によれば、江戸時代に常盤橋御門内に置かれた関東郡代が明暦大火で焼失したため1657年にここに移築されたものだそうですが、このモニュメントとの関連は不明です。このあたりも自動車の往来が激しく歩行者ですら眼を止めているのを見かけません。
「雨の浜町公園」:(2000.9.5)
久しぶりの雨になりました。昼休みの浜町公園入り口はこのように笠をさした人がちらほら歩いています。都心近くに植えられ、普段はくすんでいるであろう木々の緑が雨によって一層鮮やかに映えています。この時期ではまだ紅葉のシーズンまでに2ヶ月以上ありますが、11月中旬の現在ではこの浜町公園の多くの樹木が紅葉に変わってきました。
「馬喰横山駅にて」:(2000.9.7)

JR総武線の駅で、ここは西改札口です。馬喰横山駅は地下20m以上にある日本一深い所の駅とか。ホームから改札口に来るためにはまずエスカレーターで高さ10数mを上り、さらに数mを上る必要があります。また改札口はここと東側の2つですが、両方の距離は恐らく300mほどではないかと思います。日中の一こまですが列車が着いた直後のようで結構人の行き来があります。
「さあ一仕事」(2000.9.12)

先の「弁慶像」近くでの光景です。昼休みが終わってリヤカーから箒を取り出し落ち葉などをかき集め始めました。隣に座っている男は無関係です。このあたりの公園や道路では多くの清掃人を見かけますが、そのためか街路などはいつもきれいに維持されています。
「両国橋たもと天下泰平」:(2000.9.14)

両国橋のたもとで昼寝をむさぼる男を描きました。9月の残暑の中、この日は曇っていたのと隅田川から吹いてくる風のおかげで木陰でなくても眠れるのでしょう。自転車の篭には何かしらビニール袋に入った荷物がどっさり入っています。
「両国橋より隅田川下流を」:(2000.9.19)

両国橋から見た隅田川下流側です。隅田川は多くの橋でさえぎられていますが、このあたりは橋の間隔が長く川の湾曲が美しく眼に映ります。川沿いの散歩道では昼休みのサラリーマンがちらほら見えます。この道ではベンチや花壇の石に座って弁当を食べている人をよく見かけます。ただ皆一人のことが多く、短いながら充実したプライベートタイムを貪っているかのようです。
「問屋の店先」:(2000.9.21)

馬喰町界隈の商店街ではこのように空きダンボール箱をリヤカーにつんだり運んでいる光景に出会います。たくさんのダンボールが廃棄されるのは多分問屋だろうと思いこのようなタイトルにしましたが、実際はどうでしょうか。毎日莫大な量の紙製品が廃棄されますが、資源のリサイクルとともに労働資源の有効活用にもなっているかも知れません。
「水天宮交差点にて」:(2000.9.22)

ここは「水天宮交差点」より「水天宮交番前」と言う方が判りやすいです。交番建物も水天宮に合わせてこのようにデザインされており、一見しただけでは交番とは気がつかない程です。しかし正面には必ず1・2人のおまわりさんが立っています。ここは水天宮通りと新大橋通りが交差した自動車がかなり多いところで、歩行者の事故防止に目を光らせているのかも知れません。 
「日本橋川・鎧橋から茅場橋を」:(2000.9.26)

日本橋川は神田川と平行し隅田川の下流側に流れ込んでいます。しかし殆ど川を塞ぐように高速道路が走っており、地図では見にくいです。この絵は日本橋川に掛かる鎧橋(よろいばし)から下流側の茅場橋を見たものですが、上部の高速道路ばかりが目立って茅場橋は申し訳の感じです。しかしこうして絵にしてみると、高速道路のいかめしいコンクリート建造物の間に、橋や川の水面を垣間見るという面白い光景ではあります。