「つかの間の秋を描く」 (2002.11.15掲載)

今年ももう1ヵ月半を残すのみとなりましたが、今年は秋が短かったとか無なかったと言うのが挨拶用語になったほど急に寒くなりました。私はその短い秋の間隙を縫って10月を各地の風景に興じ、自分なりにささやかな芸術の秋を楽しむことが出来ました。久しぶりに四国(高松)と北海道(札幌・江別)に出張する機会があり、相当数の葉書絵を描きましたので、近場で見かけた秋の情景を交えて幾つかをご紹介します。。

「虹の中で遊ぶ子供たち」:(2002.10.5)

名古屋市の北部に位置する庄内緑地公園で見かけた光景のひとつです。噴水の周りで水滴を浴びながら戯れている子供たちの向こうに虹がくっきりと現れています。今年の残暑は厳しく長かったので10月初旬でもこのように涼しい遊びに人気があったようです。、
「カメラマンとモデル」:(2002.10.5)

上の絵を描いた公園ではこのような場面も眼にしました。2人の茶髪の女性をモデルにしてスナップ写真を撮っています。花壇のベンチにすったモデルの前でカメラマンがいろいろ注文をつけているようです。周囲には濃淡の緑に囲まれたいろいろな花が咲き乱れ、カメラマンの創作意欲をくすぐっているのかも知れません。
「網くぐりに苦労する男達」:(2002.10.6)

地元の市民体育祭での光景です。野郎共が地面に密着しようとするネットをかいくぐって我先にと逃げ出す直前です。ネットくぐりはトップで入るより2番目以後の方が有利といわれますが、この場合は皆がネットの中で団子状になってネットを持ち上げている感じです。見て楽しんでいる我々とは逆に、彼らは普段やったことも無い格好で苦しんでいるようです。
「玉藻公園・旧玉藻廟」:(200210.10)

玉藻公園は高松駅の真正面にあり、その中央部にこの高松城天守閣跡があります。高松城は天正16年(1588年)に生駒親正公によって築城され明治17年(1884年)に取り壊されて、現在は松平頼重を祭ったこのような建物が残されています。私は時間が無いため公園内全体を回遊できませんでしたが、お堀に囲まれた櫓や松並木が往時の雰囲気をかもしています。ただ最近駅前に建てられたという高層のホテルが松並木の向こうにそびえているのは奇異な感じでもあります。
「高松城天守閣跡より鬼ヶ島を望む」:(2002.10.10)

上に描いた場所から北方向を見ると、湾を挟んで瀬戸内海に浮かぶ島々が眼に入ります。向かって左側が女木島(鬼ヶ島)、その右手奥が男木島だそうです。丁度遊覧船が港近くに入ってきました。船が不相応に大きく見えるのは視界が樹木に挟まれているためですが、秋の太陽が海の色をいっそう鮮やかにし、船を目立たせている感じもします。手前は城の水門で、この城が海城であるためお堀の水位を潮の干満にあわせて調節する目的で設けられたものだそうです。
「浅草寺・秋の週末」:(2002.10.12)

東京葛飾区に住んでいる長男夫婦を妻とともに丁度1年ぶりで訪ね、ついでに浅草寺にお参りしました。秋の週末とあって観光客などでごった返しています。2歳半になった長男の娘の手を引いて人ごみの中を通り抜けることがままならず、中央の仲見世を避けて店の裏側を行き来した次第です。また彩水会東京展がこの日まで近くの展示館で開催されたので、皆で鑑賞しました。
「2002年・雷門のにぎわい」:(2002.10.12)

雷門前は団体の待ち合わせ場所にもなっているらしく、修学旅行生の一団や多くの人で埋まっています。朱色の大ちょうちんが、表面に描かれた雷門という字を顔の表情に見立てて、周囲を行きかう人々を見下ろしているような錯覚を起こしそうです。
私はこの作品を平成15年の年賀状の挿絵として準備しました。
「帆船・日本丸」(2002.10.13)

東京からの帰途新横浜で新幹線に乗り換えるには間があったので、横浜港近くに来て昼食を取ったついでに描きました。この船は文部省が航海練習のために1930年建造した帆船で、現在は横浜港に係留されています。秋の澄み切った空をバックに、黄色いマストが端正ともいえる姿を表しています。すでに引退して久しいので帆を張ることはないでしょうが、帆を全開して航海したこの船の姿はさぞかし美しくロマンを感じさせたのであろうと思います。
「ランドマークタワーの威容」:(2002.10.13)

横浜港のシンボルであるこの建物については、数年前横浜港西側の外人墓地から遠望して描いたことがあるだけで、接近して描いたのは初めてです。あまりにも幾何学的な造形で冷たささえ感じさせますが、一般のビルのように単純な形状でないために、よく観察すると光の当たり方で表情が変わりおそらく長く見ていても飽きないのではないかと思った次第です。そういえば数年前に訪れたアメリカのピッツバーグ近くの地方都市に、これとよく似た名前も同じランドマークタワーがあったことを思い出しました。
「北海道大学総合博物館」:(2002.10.15)

北海道に出張したのは数年ぶりで、北海道大学へは初めて訪れました。札幌市のど真ん中に広大な緑地が開け、すべてがキャンパスを形成しています。この建物は理学部の研究室をかねているようですが、玄関入口の形などから相当古い建物と思われます。北海道大学はクラーク博士や新渡戸稲造で有名で、お二人の胸像もこのキャンパスに置かれており、私はクラーク博士をスケッチさせてもらいました。
「北海道大学キャンパスにて」:(2002.10.15)

キャンパス内の樹木の紅葉は相当進んでいます。この風景は小さな池の周りに植えられている樹木の紅葉ですが、大小さまざまな葉がそれこそ思い思いの表情で我々の眼を楽しませてくれます。また池の中や周りにはカモなどたくさんの渡り鳥が水中に頭を突っ込んだり羽根をばたばたさせていました。
「北海道大学・ポプラ並木」:(2002.10.15)

大学の正門から標識に従ってキャンパス内を歩くこと約30分、ポプラ並木にたどり着いて驚いたのは、あまりにも樹齢が重なっている様子です。しかもその貫禄?に私は圧倒される思いでした。入口の注意書きに「倒れる危険があるので近寄らないように」と表示してあるのも印象的でした。早速絵具などを出して描き始め、出来がったのがこれです。10年ほど前観光バスで通りすがりに見た並木はもっと若い感じがしましたが、樹木も人間と同様晩年の外見の変化が長年生きることの厳しさを象徴しているようです。
「大通公園・秋を楽しむ夫婦」:(2002.10.15)

大通公園の周囲の樹木がだいぶ紅葉し、この日は曇り空であったものの札幌の秋が鮮明に感じられました。まだ午前の早い時期のため行き交う人もまばらでしたが、丁度私と同年輩らしきご夫婦が噴水近くベンチに腰を下ろして静かなひと時を過ごしておられました。手前の紅葉と遠方のビル群などすべてが、つかの間の秋を私に印象付けてくれています。
「旧北海道庁」:(2002.10.15)

北海道庁に隣接して残されているこの旧庁舎は、明治21年(1884年)に建造された当時は鹿鳴館と並ぶ大建築物であったそうです。昭和44年(1969年)国の重要文化財に指定され、現在は観光の目玉として多くの人たちを集めているようです。青緑色の屋根を冠したレンガ造りの建物には明治の風格と現代の落ち着いた感じがうまくマッチし、私の葉書絵の中に素直に入ってきました。
「札幌・時計台」:(2002.10.15)

「時計台の鐘が鳴る・・・」、かっては周囲の建造物が少なく、時計台と鐘の音が遠くからも感じられたでしょうが、現在では高層ビルなどに囲まれて正面にある銀行入口付近からのみ、このように見ることが出来ます。この絵を描いたのが午前10時過ぎで、行き交う観光客が時計台をバックに相手を立たせ思い思いにカメラを向けていました。私が葉書絵を始めて丁度9年、全国のかなり多くの題材にチャレンジしてきましたが、この時計台は私の長年の希望をかなえてくれたモチーフの一つになりました。